トンデモない一行知識の世界 OLD - 唐沢俊一の「雑学」とは -

一部で有名な唐沢俊一の一行知識に、ツッコミを入れたり派生トリビアを書いたり。
「愚かで分別のない人と思われたいなら、唐沢俊一のトリビアを引用しなさい。」

 
旧 URL は、http://diary.aol.com/yzuc9ww/834.html
文字列の一括置換をかけた都合上、旧ブログのコメント欄および2ちゃんねるのスレからの引用の中の URL も全部新 URL に置き換わっていますことを、あらかじめご了承ください
http://tondemonai2.blog114.fc2.com/ で続きの Blog をやっています
   
 

2009/1/10  15:58

冷たい方程式ならゴドウィン、残酷な方程式ならシェクリー  『トンデモ一行知識の逆襲』間違い探し編

『トンデモ一行知識の逆襲』 P.141
知能指数を算定する方程式は、われわれの世代(昭和三〇年代生まれ)
だと、精神年齢を実年齢で割ったものに100を掛けたもの(比率式)だった
が、これでは年齢が高くなるにつれて知能が鈍化していくことになり、不合
理だというので、最近はもっと複雑な計算法(偏差式)がとられている。その
方法にもウェックスラー式とかビネー式とかスタンフォード式とかさまざまな
ものがあり、いったいどれで算出した知能指数が本当のところなのか素人
にはさっぱりわからない。

どうして、測定方法や知能検査の内容といったものは無視して、「算定する方程式」や
算出」にのみこだわるのか疑問に思うけど、それについては後述するとして。

確かに、唐沢俊一のいう「精神年齢を実年齢で割ったものに100を掛けたもの」――
下に引用する Wikipedia の記述では「比例IQ」[1] 「比率IQ」[2] などと表現――は、最近
はあまり使われなくなっていて、「偏差IQ(deviation IQ)」「DIQ」[3] で表現する流れに
なっている。

[1] - http://ja.wikipedia.org/wiki/知能指数
>旧版のスタンフォードビネーテストでは、平均的な人間の知的能力は16歳まで年齢と
>ともにゆるやかに伸び、生活年齢が16歳になったとき精神年齢は15歳になったものと
>見なされ、以後その能力にとどまるとされる。たとえば23歳の平均的成人の知的能力
>はあくまで精神年齢15歳である。1987年版の田中ビネーでは平均的な23歳の知能は
>精神年齢17歳9ヶ月とされる。これらの例からもわかるとおり、年齢尺度を用いた知能
>検査であっても、12歳以降はもはや本来の意味での精神年齢の定義ではなく、もっぱ
>ら自然なIQを算出するために定めた架空の数値と言っても過言ではない。このことも、
>比例IQが使用されなくなった要因の一つとなっている。


[2] - http://ja.wikipedia.org/wiki/田中ビネー知能検査
>1987年版までは、ビネー式の特徴である精神年齢と生活年齢の比によってあらわさ
>れる本来の定義による知能指数(比率IQ)を算出するようになっていたが、田中ビネー
>知能検査Vでは、14歳以上の被験者には精神年齢を算出せず、もっぱら偏差値知能
>指数だけを求めるようになっている。


[3] - http://software.ssri.co.jp/statweb2/column/column0710.html
>知能指数は標準偏差(S)が15か16、平均(M)は100です。知能指数というと精神年
>齢を実際の年齢で割って100を掛けたものと思っている方が多いかもしれませんが、
>現在では、標準得点化された知能指数が主流です。標準得点化された知能指数の
>ことを厳密には偏差IQ(deviation IQ)と言い、DIQと略します。
>標準偏差が15であるか16であるかは、知能検査の種類の違いによるもので、15が
>ウェクスラー式知能検査(幼児用のWPPSI、子供用のWISC、大人用のWAISがある)、
>16が田中ビネー式知能検査です。


ただし、唐沢俊一が「われわれの世代(昭和三〇年代生まれ)だと」といっているのは、
小中学校で実施されていた集団知能検査のことを念頭においてのことだと思われるが、
これについては、「最近はもっと複雑な計算法(偏差式)がとられている」というより、知能
検査を実施する学校自体が少なくなっていて、最近の実施率は 50% 程度とのこと [4]。

[4] - http://kotoba.merrymall.net/yy55_000.html
><出典>読売新聞(2008年2月26日付け) 
><記事>日本の知力(IQは知能のごく一部・遺伝だけで決まらず)
〈略〉
> 日本でも、知能テストは70年代までほとんどの小中学校で行われていたが、現在
>の実施率は50%程度と見られる。IQ測定が差別につながると学校側が敬遠し始め
>たのが主な原因だ。


[5] - http://oshiete1.goo.ne.jp/qa31938.html
> また、記録についてですが、指導要録という書類に知能偏差値を記入するというの
>が一般的です。その記録は5年間保存されます。
〈略〉
> 最近では、知能検査の結果を十分には生かせないとか、知能指数という数字が本
>来の意味もあまり理解されずに数字のみが一人歩きしてしまうとか、知能検査その
>ものの実効性をどう考えるかという議論があり、私の所では現在は行っていません。


最近はプライバシー保護とか声高にいわれるし、知能指数のように「数字のみが一人
歩き
」しがちなものの情報の扱いは何かと難しそうで、実施しない学校が増えたという
のもわかるような気が。[4] で一部引用した読売新聞の記事には、こうも書かれている。

[6] - http://kotoba.merrymall.net/yy55_000.html
> IQ測定の知能テストは、1905年に仏の心理学者ビネーが子供に発達遅れがない
>か調べるため原型を作った。これが米国に渡り、知能数値化の道具となった。IQ100
>が平均で、3人に2人は85~115の範囲に収まるとされる。
〈略〉
> 知的発達の遅れがある子供たちに、通常の授業を受けさせるか、特別な教育を受け
>させるかを判断する時、直感や経験だけに頼るわけにはいかない。客観的な判断基準
>が必要になるから、ビネーが考えた知能テストは理にかなったものだったと思う。
> しかしビネー自身は、知能を数値化することなど考えていなかったし、自分の作った
>テストは人間の知能を測る絶対のものではないという注意もしていた。ところが、アメリカ
>の心理学者がビネーの注意を無視した。知能テストの結果が陸軍の採用の基準と
>なったり、人種差別の根拠となってしまった。


で、すぐ上に引用した部分 [6] や Wikipedia からの引用箇所 [1] [2] だけを読んでも、
唐沢俊一のいう「最近はもっと複雑な計算法(偏差式)がとられている。その方法にも
ウェックスラー式とかビネー式とかスタンフォード式とかさまざまなものがあり
」は、かなり
変なことを書いているというのは見てとれる。

唐沢俊一の文章では、「ウェックスラー式とかビネー式とかスタンフォード式とか」が、
知能指数を算定する方程式」「複雑な計算法(偏差式)」であるかのような扱いだ。
ビネー本人は数値化自体に反対していた [6] し、田中ビネー知能検査 V より前の版、
1987 年版までは、「精神年齢と生活年齢の比」が使用されていた [2] のだが。
[1] でいう「旧版のスタンフォードビネーテスト」も「比例IQ」。

それより何より怖いのは、唐沢俊一にとっての「ウェックスラー式とかビネー式とかスタン
フォード式とか
」が、知能検査の内容や種類、方式といったものをさすのではなく、まさに
知能指数を算定する方程式」――それぞれの名称につけられている「」は「方程式」の
」でしかない――という可能性を、唐沢俊一の文章を読み返せば読み返すほど、否定
できなくなってしまうことだが。

下記引用 [7] に示す通り、それぞれの知能検査は、その国の事情に応じて標準化作業
がなされ、適宜改訂されていっている。結果表示の数値を比率式から偏差式に変更する
といったようなことも、改訂の一環としておこなわれることがあるのだ。

http://ja.wikipedia.org/wiki/知能検査
>1916年にルイス・マディソン・ターマンによって「スタンフォード・ビネー改訂増補ビネー
>・シモン知能測定尺度」が発表された。
>ビネー法は画期的なものだったため、世界各国に輸出されるが、フランス語のままで
>は使えないので、現地で翻訳されて標準化作業がなされた。この一環としてもっとも
>大規模なのが、1916年に1378人(2300人との資料もある)の被験者を対象に標準化
>された、スタンフォード・ビネー法である。これはスタンフォード大学のルイス・マディソ
>ン・ターマンがメリルの協力を得てビネーの1908年版を元に開発したものであるが、
>これの大きな特徴は、シュテルンが提案した知能指数を結果表示に使用していること
>である。
〈略〉
>1930年に鈴木治太郎によって「実際的・個別的智能測定法(鈴木ビネー知能検査)」
>が発表された。近畿地方で教員を務めていた鈴木治太郎は、1920年からビネー法の
>日本での標準化に着手し、1925年までに大阪地域の3814人の児童を対象に標準化
>を行なった。これがビネー法の日本版として田中ビネーとともに有名なものである。
>鈴木はそれ以降も16000人を対象に標準化するなど、外国にも類を見ない研究活動を
>行なって、1956年まで数回の改訂を行ない続けた。
〈略〉
>1947年に田中寛一によって「田中ビネー知能検査」が発表された。B式検査を発表し
>た田中だったが、個別式検査の方は既存のものでは不十分だと考え、1937年版スタ
>ンフォード・ビネー法を基にして、4歳級以下と11歳級以上の部分を強化し、1947年に
>「田中びねー式智能検査法」を発表した。標準化時の述べ被験者は4886人である。
〈略〉
>1949年にウェクスラーによってWISCが発表された。児童向けの知能検査である。
>1955年にウェクスラーによってWAISが発表された。成人向けの知能検査である。
>1966年にウェクスラーによってWPPSIが発表された。幼児向けの知能検査である。
>1986年にロバート・ソーンダイク(有名なエドワード・ソーンダイクとは別人)他2名に
>よって「スタンフォード・ビネー知能尺度第4版」が発表された。この版では、ビネー法の
>特徴である知能年齢などの概念を捨て去り、ウェクスラー系に著しく近いものとなった。
>すでに1960年版で従来のIQを捨て去り、DIQを採用していたため、徐々にビネー法の
>特徴は薄れていっていた。
>2003年に田中教育研究所によって「田中ビネー知能検査V(ファイブ)」が発表された。
>これが田中ビネーの最新版である。ビネー系の知能検査は知能年齢・従来のIQを使用
>することが特徴であったが、世界的な流れに合わせ、生活年齢14歳以上にDIQを取り
>入れることにした。ただし13歳以下でDIQを算出することも、14歳以上でも場合により
>(知的障害など)知能年齢を算出することも可能である。この14歳以上のDIQの採用
>と、14歳以上の知能を「結晶性」・「流動性」・「記憶」・「論理推理」の4領域別に算出
>できること、1歳以下対象の発達チェックの採用などが特徴である。



   
 
HOME

 

 

inserted by FC2 system