トンデモない一行知識の世界 OLD - 唐沢俊一の「雑学」とは -

一部で有名な唐沢俊一の一行知識に、ツッコミを入れたり派生トリビアを書いたり。
「愚かで分別のない人と思われたいなら、唐沢俊一のトリビアを引用しなさい。」

 
旧 URL は、http://diary.aol.com/yzuc9ww/838.html
文字列の一括置換をかけた都合上、旧ブログのコメント欄および2ちゃんねるのスレからの引用の中の URL も全部新 URL に置き換わっていますことを、あらかじめご了承ください
http://tondemonai2.blog114.fc2.com/ で続きの Blog をやっています
   
 

2009/1/12  1:25

豪華な部屋にはハエとゴミとシリルとスチュワートの腐乱死体  『トンデモ一行知識の逆襲』間違い探し編

『トンデモ一行知識の逆襲』 P.120
 日本でもファンの多いデビッド・クローネンバーグ監督の作品に『戦慄の絆』
というスリラーの佳作がある。アイルランド出身の名優、ジェレミー・アイアン
ズが、ふたりでひとりの自我を持つ双子の役を見事に演じていた。

性格が正反対の双子を演じ分けたのだから、「ふたりでひとりの自我を持つ双子の役を
見事に演じていた
」とはいわないんじゃないかなあ。

http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD12010/story.html
>少年時代からいつも一緒だった一卵双生児の兄弟、エリオット(ジェレミー・アイアンズ)
>とビヴァリー(J・アイアンズ=二役)は、容姿こそ瓜二つであるが、性格は兄のエリオット
>が社交的で野心家、弟のビヴァリーが内気で繊細な努力家と正反対であった。が、不
>思議とバランスのとれた兄弟の共同生活は、トロントに婦人科医マントル・クリニックを
>開業した現在も続いていた。


――と、だいぶ前に2ちゃんねるのスレに書き込んだんだけど (Read More 参照)、いや
ふたりでひとりの自我を持つ」は多少言い過ぎかもしれないが、間違いとはいいきれ
ないし、性格造形が「相補的」だとか、劇中の二人に「一体化願望」があるとか、もっと
うまい表現を思いつかなかったんだろうから――というようなことをいわれて、なるほどと
思ってそのままにしていたネタ。

『トンデモ一行知識の逆襲』 P.120 ~ P.121
 ここの話は実話を元にしている。一九七五年、ニューヨークで一卵双生児
の兄弟、スチュアート・マーカスと弟のシリルが、腐乱死体で発見された。
ふたりは当時、どちらも(当たり前だが)四十五歳で、どちらもパークアベ
ニューで有名な産婦人科医だった。
 彼らふたりは外見はもちろん、性格も非常に似通っていたが、兄のスチュ
ワートの方が常にリーダーシップをとり、弟のシリルはそれに従っていた。
弟は生まれたときから常に自分の上にいる兄の支配から逃れようとさまざま
に努力するが、しかし兄の保護下から脱することは自分の自我をも否定する
ことになる、と悩み、しだいにドラッグにおぼれるようになる。その弟の惨状
を目にした兄のスチュワートは、彼と同じ境遇になるため、自らもドラッグを
服用する。そして、同じアパートの一室で、ふたりは世間から隔絶した自分
たちだけの世界に閉じこもり、やがて衰弱死をとげたのだった。

デビッド・クローネンバーグ (David Cronenberg) 監督の『戦慄の絆』 (Dead Ringers) は、
実話犯罪小説『Twins』を元にしているともいう [1]。

元になった実話とは、スチュアート・マーカス (Stewart Marcus) とシリル・マーカス
(Cyril Marcus) という一卵性双生児の 2 人が、1975 年 7 月 19 日に、マンハッタン
のイーストサイドにある高級マンションから、腐乱死体で発見された事件をさす。2 人
とも有名な産婦人科医で、45 歳だった [2][3]。死因は、バルビツールの過剰服用に
よるもので、自殺ともいわれている [1][3]。

そこまではよいとして、唐沢俊一のいう「兄のスチュワートの方が常にリーダーシップを
とり、弟のシリルはそれに従っていた
」とする資料は見つからなかった。弟が「兄の支配
から逃れようとさまざまに努力
」していたのが「ドラッグにおぼれる」原因という話も同様。

だいたい、思春期に毛が生えたような年齢ならともかく、なぜ 40 代にもなって、「兄の
保護下から脱することは自分の自我をも否定
」とかで悩んで、ドラッグに手を出したり
しなくてはいけないのか。映画の『戦慄の絆』のヒロインのような、双子の兄弟の分離・
葛藤をうながす要因は、唐沢俊一のストーリーには登場しないし……。兄のスチュワート
はずっと独身だったそうだが、弟のシリルの方は離婚したとはいえ結婚経験者で、娘も
2 人いたりするのだし [3]。

さらに説得力がないのが、「その弟の惨状を目にした兄のスチュワートは、彼と同じ境遇
になるため、自らもドラッグを服用
」。……弟を助けようとするのは最初から放棄か?

それに比べたら、[4] の資料でいっていることはずっとマトモだ。1972 年頃からシリルが
健康を損ねてしまい (卒中?)、処方箋を書いて入手できる最上級の薬のいくつかに依存
するようになり、当然のように中毒者のスパイラルにハマり、言動は不安定になっていく。
シリルを助けようとしたスチュワートにも弟の狂気が伝染し、ほどなくして兄も同様に薬物
中毒になり、狂気と麻薬の乱用のサイクルにただ沈んでいったという話。
([4] 自体は、フォークロアとしての投稿に過ぎないようだが、唐沢俊一のストーリーよりか
は、話の筋が通っているだけマシである)。

で、まあ、個人的には、ここで唐沢俊一が提示しているストーリーに対して、辻褄の合わ
なさだけが原因ともいえない気持ち悪さを感じてもいる。「ロラン・バルトも何だかいろいろ
大変だ
」のエントリーを書いていたときに感じたそれにも通じる気持ち悪さというか……。


[1] - http://www.fnosta.com/14se/title/deadringers.html
>作品のモチーフとなったバリ・ウッドとジャック・ギースランドによる77年出の"Twins"
>は、実在したスティーヴンとシリルのマーカス兄弟の実話に基づいた物語である。
>二人は鎮痛剤などにも使用されるバルビツール酸塩を服用し自殺、その遺体は、
>マンハッタンのイーストサイドにあった彼らのアパートで発見されている。


[2] - http://www.timeout.com/newyork/articles/i-new-york/22448/it-happened-here (翻訳)
> Sutton Terrace, the UES apartment complex near Gracie Mansion, was built to
> house the city’s finest medical minds. But on July 19, 1975, apartment 10H at
> 450 East 63rd Street made front-page news when the decomposing, emaciated
> bodies of identical-twin gynecologists Stewart and Cyril Marcus were discovered.
> The 45-year-olds shared nearly everything: a thriving practice, teaching
> appointments at New York Hospital, a house in the Hamptons and a debilitating
> barbiturate addiction. “We cannot tell if they had wanted to stop, or simply had
> no strength to go get some more drugs,” said the medical examiner’s office, in
> ruling that the twins died of extreme withdrawal. The Marcuses’ mysterious
> demise would go on to inspire David Cronenberg’s 1988 psychological chiller,
> Dead Ringers.


[3] - http://www.jeremy-irons.com/press/archive/27.htm (翻訳)
> Drs. Cyril and Stewart Marcus shared a thriving Manhattan gynecology practice,
> office quarters and a luxury apartment on Manhattan's East Side. Both taught at
> Cornell University Medical School and were affiliated with New York Hospital.

> But the identical twins also shared a fatal addiction to barbiturates. It led to
> their joint suicide in the summer of 1975 - deaths that astonished the medical
> community and highlighted the problem of drug abuse among physicians.

> During their last months, the 45-year-old twins examined and even operated on
> patients while under the influence of drugs. Witnesses later told a New York
> State Assembly committee that the doctors performed surgery when their hands
> were shaking and they could barely stand up.

> Colleagues, who described the twins as ''inseparable,'' said they initially attached
> little signifiance to the twins' aberrant behavior, because the Marcuses had a
> reputation at the hospital for being geniuses, although a bit peculiar.

> Both graduated in 1951 from Syracuse University, where they were elected to
> Phi Beta Kappa. In 1954, they received medical degrees, with honors, from New
> York State University's Upstate Medical Center in Syracuse. Together, they
> edited a textbook on obstetrics and gynecology and co-wrote several articles
> about infertility. Cyril was divorced and had two daughters. Stewart never married.
> On July 17, a handyman discovered the doctors sprawled on the floor in their
> bedroom. Autopsy reports showed that they had been dead for approximately a
> week.

> By the end of that year, the New York State Medical Society issued a report
> urging doctors, nurses and patients to report any physician they suspected of
> drug abuse.


[4] - http://archiver.rootsweb.ancestry.com/th/read/FOLKLORE/2000-10/0972492469 (翻訳)
> By the time the 60's were pulling to a close, the Marcus twins had a highly
> lucrative Park Avenue practice and an international reputation for their ground
> breaking work in reproduction and infertility.

> In 1972, Cyril's health had begun to deteriorate. Some speculate that he may
> have suffered from a stroke or aseries of small ones. Whatever happened, the
> outcome of it was disastrous. Cyril became increasingly dependent on some of
> the best drugs a medical degree can write a prescription for. This of course led
> into the addict's spiral. As his behavior became more and more erratic, Stewart
> covered for him by taking on his identity, along with his own.

> But Stewart was too close, and his brother's madness became his own. It was as
> if they had only one identity, forged in the womb and finalized in a place only
> twins share. Stewart soon became addicted right along with his brother and
> seemed unable to help either one of them. They were drowning--- and Stewart
> could only watch as he and his twin sunk deeper in the cycle of madness and drug
> abuse.


その他参考 URL:
- http://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=2456&SELECT=23664
- http://archive.sensesofcinema.com/contents/directors/02/cronenberg.html (翻訳)
- http://www.metafilter.com/57587/The-license-to-slice-maim-violate (翻訳)





http://www.23ch.info/test/read.cgi/books/1222218800/

832 :無名草子さん:2008/10/03(金) 02:15:20
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.120
-------
 日本でもファンの多いデビッド・クローネンバーグ監督の作品に『戦慄の絆』
というスリラーの佳作がある。アイルランド出身の名優、ジェレミー・アイアンズ
が、ふたりでひとりの自我を持つ双子の役を見事に演じていた。
-------
性格が正反対の双子を演じ分けたのだから、「ふたりでひとりの自我を持つ双子の役を
見事に演じていた」とはいわないんじゃないかなあ。

http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD12010/story.html
>少年時代からいつも一緒だった一卵双生児の兄弟、エリオット(ジェレミー・アイアンズ)
>とビヴァリー(J・アイアンズ=二役)は、容姿こそ瓜二つであるが、性格は兄のエリオット
>が社交的で野心家、弟のビヴァリーが内気で繊細な努力家と正反対であった。が、不
>思議とバランスのとれた兄弟の共同生活は、トロントに婦人科医マントル・クリニックを
>開業した現在も続いていた。

833 :無名草子さん:2008/10/03(金) 02:16:30
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.120 ~ P.121
-------
 この話は実話を元にしている。一九七五年、ニューヨークで一卵双生児の
兄弟、スチュアート・マーカスと弟のシリルが、腐乱死体で発見された。
ふたりは当時、どちらも(当たり前だが)四十五歳で、どちらもパークアベニュー
で有名な産婦人科医だった。
 彼らふたりは外見はもちろん、性格も非常に似通っていたが、兄のスチュワー
トの方が常にリーダーシップをとり、弟のシリルはそれに従っていた。弟は生ま
れたときから常に自分の上にいる兄の支配から逃れようとさまざまに努力する
が、しかし兄の保護下から脱することは自分の自我をも否定することになる、
と悩み、しだいにドラッグにおぼれるようになる。その弟の惨状を目にした兄の
スチュワートは、彼と同じ境遇になるため、自らもドラッグを服用する。そして、
同じアパートの一室で、ふたりは世間から隔絶した自分たちだけの世界に閉じ
こもり、やがて衰弱死をとげたのだった。
-------
「性格も非常に似通っていた」も映画と違うんじゃないかという気がするが、二人がトラブる
原因となった患者の女性についての記述がいっさいないのも気になる。
二人と関係を持った女性は、映画の中だけのフィクションということなんだろうか。


834 :無名草子さん:2008/10/03(金) 03:32:56
http://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=2456&SELECT=23664

ここの感想を読むかぎり「ふたりでひとりの自我を持つ」は、ちょっと言いすぎの
感はあるしあまりいい形容ではないけれど、間違いとまでは言い切れない感じかな。
俺自身は封切りで見てそれっきりなので、どうだったか忘れたが(笑)。もう20年
前の映画なんだね……驚きだ。

835 :無名草子さん:2008/10/03(金) 08:28:19
劇中の双子の性格造形は 「相補的」 であるとか
劇中の二人には 「一体化願望」 があるとか
そういう言葉を思いつけなかったんだからしようがない

さらに言うなら
そもそも唐沢さんなんだからしようがない



   
 
HOME

 

 

inserted by FC2 system