トンデモない一行知識の世界 OLD - 唐沢俊一の「雑学」とは -

一部で有名な唐沢俊一の一行知識に、ツッコミを入れたり派生トリビアを書いたり。
「愚かで分別のない人と思われたいなら、唐沢俊一のトリビアを引用しなさい。」

 
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2008/10/5  15:17

「絶対サー・ロクストンではない」←ロードにしたらいいと思うよ  『トンデモ一行知識の逆襲』間違い探し編

『トンデモ一行知識の逆襲』 P.198
 “ロード”という呼称はUKでは貴族のうち、侯、伯、子、男に使う。あと、
公爵と侯爵の子供全部、伯爵の長男がロードと呼ばれる。それ以外の
貴族の子供、准男爵、それからナイトに叙勲された人は“サー”をつけて
呼ばれる。日本ではどちらも“卿”と訳すため、ファンタジーとか書いている
人はたいてい間違えて書いているが、サーは本人のクリスチャン・ネーム
の前につけ(サー・ジョンとか、サー・ウィストンとか)て呼び、ロードは
ファミリー・ネームの前につけて呼ぶ。これは当のイギリス人でもよく
間違えるようで、かの『シャーロック・ホームズ』シリーズでも、ホームズは
ときどき貴族を間違えた呼称で呼んでるというから、われわれ庶民が
間違えても仕方がないことかもしれない。


『トンデモ一行知識の逆襲』 P.200
 サーは個人に対する敬称だから、ファミリー・ネームにはつけない。
例えばジョン・ロクストン卿を呼ぶときにはサー・ジョンであって、絶対サー・
ロクストンではない。どうしても呼びたければ、サー・ジョン・ロクストン、と
フルネームで呼ぶ(これが正式)。ここらへん、日本人の作家が西洋ものを
書くと無茶苦茶である。

『絶対サー・ロクストンではない』……けど『サー・オリビエ』」のエントリーを書いた
ときには気がつかなかったけど、コメント欄のツッコミをきっかけに確認してみたら、
コナン・ドイル『失われた世界』のジョン・ロクストン卿は、Lord John Roxton。

まあ 1925 年の映画版のように「Sir John Roxton」となっている例外も存在するため、
唐沢俊一が「西洋ものを書くと無茶苦茶である」とまでいうのは、やめるけど。

『The Lost World』の原文は http://www.gutenberg.org/etext/139 からたどって参照
が可能であり、そこで本人が「I am Lord John Roxton.」と名乗っている。他の箇所の
表記は、「Lord John Roxton」「Lord Roxton」「Lord John」のどれも存在していた。
つまり、必ずしも「ロードはファミリー・ネームの前につけて呼ぶ」わけではないようだ。

それも「当のイギリス人でもよく間違えるようで」のうちといわれればそれまでだが……
しかし、後ろに Roxton がつかない「Lord John」は、数えてみたら 100 箇所以上存在
していて、さすがにこれだけの数の「Lord John」が、うっかり間違いとかいう理由で
本文中に混在しているとは考えにくい。

http://en.wikipedia.org/wiki/Lord_John_Roxton
> Lord John Roxton is a supporting character in the Professor Challenger series
> of books by Arthur Conan Doyle. He makes his first appearance in the first of
> this series, The Lost World, when he is a member of the expedition to the
> eponymous land of the title, and is a prominent character in the subsequent
> novels as well.


http://www.amazon.co.jp/dp/0812967259
> The Lost World: Being an Account of the Recent Amazing Adventures of
> Professor George E. Challenger, Lord John Roxton, Professor Summerlee,
> and Mr. E.d. Malone of the (Modern Library Classics) (ペーパーバック)


http://en.wikipedia.org/wiki/The_Lost_World_(1925_film)
> Lewis Stone - Sir John Roxton

http://en.wikipedia.org/wiki/The_Lost_World_(1960_film)
> Michael Rennie Lord John Roxton

http://en.wikipedia.org/wiki/The_Lost_World_(2001_film)
> Following the attack on the campfire by the Megalosaurus in the book, neither
> Summerlee nor Challenger are immediately able to identify even the family of
> carnivore that attacked them, whereas Summerlee immediately dubs the animal
> an allosaur upon being asked by Lord Roxton.


その他参考 URL:
- http://en.wikipedia.org/wiki/The_Lost_World_(Arthur_Conan_Doyle)
- http://en.wikipedia.org/wiki/Sir_Arthur_Conan_Doyle%27s_The_Lost_World



2008/10/7  2:03

投稿者:トンデモない一行知識
http://tondemonai2.web.fc2.com/

ありがとうございます。……何か、かなりお手数かけてしまって心苦
しく思う一方、でもやはりありがたかったり。

『トンデモ一行知識の逆襲』で唐沢俊一は、
>この貴族制度、とにかくややこしくてイヤなるが、そのややこしさ
>を楽しむのが貴族というものかもしれない。
と書いています (「イヤなるが」は原文ママ)。

これを読んだときには、いやあんまり楽しめないし、そもそも貴族
じゃないし、読んでてかったるいだけだったし……と思ったのです
が、金平糖さんの説明を読んでいると、確かにややこしいけど、マジ
で面白いと思えてきます。

>領民が領主に対してMy Lordと呼ぶのはいいのですが
>領地外の人間や対等以上の人間がMy Lordと呼ぶのは変です

ああ、なるほど。「(私の) ご主人様」という感じの呼び掛けですもの
ね。マイ・ロードは確かハインラインの『栄光の道』とかに呼び掛け
として出てきていたので、抵抗なく受け入れてしまっていました。
http://plaza.umin.ac.jp/%7Ekodama/literature/glory.html

ちなみに、百科事典全般に敷衍できるかどうかはおいといて、
Wikipedia のヨーロッパ貴族の表記規則については、これを読んでる
ところです↓

http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:記事名の付け方/ヨーロッパ
貴族の記事名/ヨーロッパ貴族の記事名に関する英語版での規約

http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%e8%a8%98%e4%ba%8b%
e5%90%8d%e3%81%ae%e4%bb%98%e3%81%91%e6%96%b9/%e3%
83%a8%e3%83%bc%e3%83%ad%e3%83%83%e3%83%91%e8%b2%
b4%e6%97%8f%e3%81%ae%e8%a8%98%e4%ba%8b%e5%90%8d/%
e3%83%a8%e3%83%bc%e3%83%ad%e3%83%83%e3%83%91%e8%
b2%b4%e6%97%8f%e3%81%ae%e8%a8%98%e4%ba%8b%e5%90%8d
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aa%9e%e7%89%88%e3%81%a7%e3%81%ae%e8%a6%8f%e7%b4%84

2008/10/7  0:44

投稿者:金平糖

私も完全に把握しているわけでもないですし
時代とともに変わっているものなので説明は難しいのですが

基本的にその爵位が何にかかっているのかが重要になります

領地にかかっているものはその領地を実質的に収めている家系にもかかりますし領主本人にもかかります
したがってLord 領地名もLord LastNameもLord FirstNameも間違いではありません
後ろに行くほどフランクな呼び方なので注意は必要ですが

家系にかかる爵位なら当然領地が付随しませんので
Lord LastName、 Lord FirstNameのどちらかになります
個人にかかるナイトはSir FirstNameしかダメなわけです
またナイトの夫人の場合、逆に夫人個人にはかからないため
Lady FirstNameを名乗るのはNGでLady LastNameになります
家系または領地にかかる爵位ならLady FirstNameでいいわけです

あとものすごく気になったのがMy Lordの記述
これが正式な呼び方というのはおかしい気がします
領民が領主に対してMy Lordと呼ぶのはいいのですが
領地外の人間や対等以上の人間がMy Lordと呼ぶのは変です
ニュアンス的には「お館様」のようなもので正式なと言う感じでもない気がします
まあ、領民やお抱え商人などが呼ぶ場合には一番失礼のない呼び方とは思うけど

あと逆に領民が領主を呼ぶのにLord 領地名も使わないです

2008/10/6  23:14

投稿者:トンデモない一行知識
http://tondemonai2.web.fc2.com/

(続き。ほとんど独り言モード)

で、本文で私が

>必ずしも「ロードはファミリー・ネームの前につけて呼ぶ」わけで
>はないようだ。

と書いたのは、2. の二人称も 3. の三人称も 4. の小説の地の文もごっ
ちゃにしていた時点のもので、「Lord John」とコナン・ドイルの小
説にあるからなあ……というものでした。

まあ、ご指摘いただいた「領地名」の問題もあるし、唐沢俊一の書き
方だけみると、4. はともかく 2. や 3. も含んで「ロードはファミ
リー・ネームの前につけて呼ぶ」といっているのだと解釈可能ですか
ら、ガセビア認定だけ考えればさっさと書き直すのが正しいのでしょ
うが、4. と 5. についても何だか気になってしまったので……。

2008/10/6  23:12

投稿者:トンデモない一行知識
http://tondemonai2.web.fc2.com/

丁寧な説明、ありがとうございます。

自分なりに考えてみたのですが、私が前回コメント欄であげたリンク
先をみて混乱した主な理由は、唐沢俊一のいう「呼ぶ」「呼ばれる」
というのが、何をどこまでさすか把握し損ねていた (今も把握しきれて
ない) せいだったかと思い至りました。

1. 爵位名
2. 面と向かって呼び掛けるとき (二人称)
3. 第三者との会話で話題にするとき (三人称?)
4. 小説の地の文での表記
5. 百科事典とか、大学や会社のパンフレットに記載されるようなとき

「呼ぶ」「呼ばれる」ということに対し、私は 1. から 5. をごっちゃ
にしていました (今も……)。
Sir の方はそれでもあまり支障はないというか、問題が表面に出てこな
いです。1. と 5. は唐沢俊一のいう「正式名称」に該当して Sir
Firstname Lastname。2. から 4. は Sir Firstname で、ときどき Sir
Firstname Lastname。

で、Lord の方を、Sir の Firstname を Lastname に置き換えるだけ
と安直に考えると、1. や 5. は Lord Firstname Lastname、2. から
4. は Lord Lastname で、ときどき Lord Firstname Lastname。

山田教授、山田一郎教授、二郎先生、鈴木二郎先生の 4 通りだけ考え
ていたといいますか。(まあ、「二郎先生」というのは例としてアレで
すが)。

ところが実際は、まず侯爵や伯爵だと (近年叙爵された場合などを除
き)、Lord Lastname ではなく Lord 領地名 になると、前々回のコメ
ント欄で教えていただきました (ありがとうございました)。

で、コメントを読んだ直後は、上でいう 2.、3.、4. どれも Lord
Lastname か Lord 領地名かと何となく思っていたのですが、ググっ
た先の資料を読んでみると、あらら 2. の二人称は My Lord で、1. の
爵位名は Lord Lastname だったり、The Viscount Lastname だった
り、The Earl of 領地名 だったりするのか、では 4. や 5. はどういう
規則で書くべきなんだろうと混乱した次第です。

たとえていえば、(呼びかけとしての) 教授、平成大学心理学主任教
授、平成大学学長、みたいな言い回しを一気に考慮に入れる必要が
出てきた、みたいな。

2008/10/6  21:33

投稿者:金平糖

『The Lost World』は読んでないのでなんとも言えないですが

正式な呼び名でないと困るのは正式な場だけです
公文章や新聞記事、議会やオフィシャルな会食で下手な呼び方をすれば顰蹙ですが
そういう場でなければそれほど問題はないです
貴族が政治の中心だった昔なら話は別ですけどね

たとえば大学に山田太郎教授がいたとして
普通は山田教授と呼ぶわけで、山田太郎教授とは呼ばないし
太郎教授なんて呼んだら失礼ですよね
でも、息子の山田一郎教授が同じ大学にいれば少なくとも

山田一郎教授と呼ぶのは失礼というわけでもないですし
山田太郎教授と呼ぶのもまあ、ありでしょう
さらに相手の人柄によっては一郎教授でもそれほど失礼ではないですし

より年上の教授が呼ぶのなら、太郎教授、一郎教授でも問題ないわけです

ただし、この場合でも太郎教授と呼ぶのにふさわしくない相手というのもいるので
誰が、どこで誰を呼ぶのになんと呼んだのかは重要になります

領内の下働きの娘が領主をLord Jhonなどと呼んだらとんでもないことになるでしょう

2008/10/6  0:23

投稿者:トンデモない一行知識
http://tondemonai2.web.fc2.com/

こんにちは (_ _)  いつもどうもです。
そう言えば、領地名に結びつけられるという話もどこかの本に……と
思って捜したのですが、発掘できませんでした。まあどうせメインは
建物の話の本だったから、そんなによいソースじゃなかったかも。

ネット上でググって、いま参照しているのが、

http://www.h3.dion.ne.jp/%7Eduke/shakui/shakui2.html
>公爵/侯爵/伯爵は領地名、子爵/男爵は家名、准男爵/ナイト爵
>は個人名に由来しています。
> 但し、高位の爵位であっても近年叙爵された場合には領地名では
>なく家名に由来することがあるそうです。

http://westblogburg.blog37.fc2.com/blog-entry-36.html
>侯爵(Marquis)
> The Marquis of 領地名/My Lord/Lord 領地名
>伯爵(英国の伯爵:Earl、英国以外の伯爵:Count)
> The Earl of 領地名/My Lord/Lord 領地名
>子爵(Viscount)
> The Viscount Lastname/My Lord/Lord Lastname
>男爵(Baron)
> Lord Lastname/My Lord/Lord Lastname

で、参照しているうちにわからなくなってきたのは、この爵位名とか
上記サイトの人のいっている「第三人称」というのが、百科事典の
ようなところの名前の表記、小説内の登場人物の名前の表記を、束縛
するべき規則なのかなあ、ということです。

前エントリーに書いたような、Sir Olivier と書いてある本もあるよと
いう話。こちらはまあペーパーバックだし、別件で話題になった
「すべからく」の「べし」なしと同レベルの誤用が含まれていても
おかしくはないよねと納得できます。

しかし、ドイルの小説内の「Lord John」の連発は、作者の無知によ
る間違いと考えるのは、どうしても抵抗を感じるので……。

2008/10/5  22:05

投稿者:金平糖

唐沢先生も基本的なとこで勘違いしてるみたいですが
イギリスでは爵位は家系につくのではなく領地につきます
公爵は一般にはDuke ○○ と土地の名前で呼ばれ
侯爵、伯爵がLord ○○ と土地の名前で呼ばれます
子爵、男爵がLord ファミリーネーム
准男爵、騎士がSir ファーストネーム になります

ロードの長男はフルネームの前にロードを付けて呼ばれます

爵位は領地につくものなので家系によっては複数持ってます
その場合次男以降がその爵位を受けてロードを名乗ったりします

貴族で爵位がない次男以降は、The Hon などと付けて呼ばれます



   
 
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