2008/7/19 13:02
薬学でもあり文学でもあり――ガセビアが混じらない方が不思議 『トンデモ一行知識の世界』間違い探し編
『トンデモ一行知識の世界』 P.86
「人間の生血を全身にあびせれば完治」とは八犬伝に書いてないぞというのは、「『生血を
全身にあびた』のは志乃じゃなくてエリザベートでは」の方で。
「蟹がウルシかぶれに効能がある」というのは、民間療法としては伝えられているけど、
蟹汁を食べるか、蟹の甲羅をすりつぶして皮膚に塗るかのどちらか。
唐沢俊一のいう「ウルシの毒は蟹肉に溶けて水になる」は、八犬伝の第四回にある蟹汁
の説明、「もし蟹を烹ることあれば、漆ながれてよらずとなん」[1] の劣化コピーと思われる
けれど、これでは「最近のキチンキトサンの研究などで」とは話がつながらない。キチンが
存在するのは「カニやエビの甲殻」、キトサンは「真菌類の接合菌類(ケカビの仲間)の細
胞壁」[2] であり、「蟹肉」ではない。それに、キチンやキトサンを食べても、ヒトは「消化す
る酵素を持たない」ため、「食物繊維としての作用を発揮した後、大部分はそのまま糞中
に排泄され」るのみ [2] と、日本キチン・キトサン学会の Q&A に書いてある。
実は、同じ八犬伝の第四回には、孝吉の漆かぶれの治療のために物売りの少年から
買った蟹三十匹の「甲を碎きて全身にぬりつ」[1] とも書かれている。こちらを引けば、
馬琴の生きていた当時の「古今の薬学書」の記述にも合致するだろうに、なぜわざわざ、
「ウルシの毒は蟹肉に溶けて水になる」としてしまっているのかは謎である。
ちなみに、「たとえば蟹がウルシかぶれに効能があることは、最近のキチンキトサンの
研究などで科学的にも根拠のあることが証明」されているといえるかどうかは微妙。
「キチンは火傷などを早くきれいに治す創傷被覆剤として商品化」されていたり、キトサン
は抗菌作用があって水虫の「白癬菌の増殖を抑える」報告があったりという話もある [2]
が、漆かぶれについては民間療法としていわれているのみのレベルっぽい。
そもそも、「蟹がウルシかぶれに効能」があると、たとえ「最近のキチンキトサンの研究
などで科学的にも根拠のあることが証明」されていたとしても、それは馬琴とはいっさい
関係のない話。「馬琴はちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベルでの考証
も怠っていな」かったかどうかの傍証にも何にもならないという問題もあるのだが。
[1] - http://www.fumikura.net/text/8kenden/04.html (『南總里見八犬傳』第四回)
>漆(うるし)は蟹(かに)を忌(いむ)もの也。されば『漆(うるし)を掻(か)く家(いへ)に
>て、もし蟹(かに)を烹(に)ることあれば、漆(うるし)ながれてよらずとなん。よりて思ふ
>に、今(いま)その瘡(かさ)は、漆(うるし)の毒(どく)に觸(ふれ)たるのみ。内(うち)よ
>り發(いで)きしものならぬに、蟹(かに)をもてその毒(どく)を觧(とか)ば、立地(たちど
>ころ)に愈(いえ)もやせん。用(もち)ひて見よ
〈略〉
> 義実(よしさね)はこれを見て、「箇様(かやう)にせよ」と教(をしへ)給へば、孝吉(た
>かよし)はこゝろ得(え)果(はて)て、その半(なかば)は生(いき)ながら、甲(こう)を碎
>(くだ)きて全身(みうち)にぬりつ。そが間(ひま)に貞行(さだゆき)等(ら)は、腰(こし)
>なる燧(ひうち)をうち鳴(な)らし、松(まつ)の枯枝(かれえ)を折焼(をりたき)て、残
>(のこ)れる蟹(かに)を炙(あぶ)りつゝ、甲(こう)を放(はなち)、足(あし)を去(さり)
>て、孝吉(たかよし)に與(あたふ)るを、ひとつも殘(のこ)さず服(ふく)せしかば、さしも
>今(いま)まで臭(くさ)かりし、膿血(うなぢ)は乾(かは)き、瘡痂(かさぶた)は、只
>(たゞ)掻(か)く隨(まゝ)に脱落(こぼれおち)て、大(おほ)かたならず愈(いえ)にけり。
[2] - http://www.jscc.jp/chitin/qanda.htm
>Q1.キチンとキトサンは自然界ではどのようなところに存在しますか?
>キチンについてはカニやエビの甲殻がすぐに思い浮かびます。
>〈略〉多くの場合、キチンは生物の外骨格(カビやキノコの場合は細胞壁)に存在してお
>り、外界から身をまもるバリアーとなっています。キトサンは真菌類の接合菌類(ケカビ
>の仲間)の細胞壁に存在します。
〈略〉
>Q4.キチンやキトサンはどんなところに使われていますか?
>キチンは火傷などを早くきれいに治す創傷被覆剤として商品化されています。最近、抗
>菌防臭繊維というラベルをつけた靴下や下着をスーパーマーケットやデパートで見かけ
>ますが、これらの中にはキトサンを有効成分としている製品が増えています。
〈略〉
>Q5.キチンやキトサンを食べるとどのようになりますか?
>ヒトがこれらのものを摂取しても消化する酵素を持たないため、野菜や穀類、豆類など
>に含まれるセルロースやヘミセルロース、ペクチンなどと同様に、消化管内で食物繊維
>としての作用を発揮した後、大部分はそのまま糞中に排泄されます。
〈略〉
>Q10.キトサンは水虫に効くのでしょうか?
>キトサンを酢酸や乳酸に溶かして、水虫の原因菌である白癬菌に対して生育を抑える
>濃度測定や、キトサン微粉末を練り込んだレーヨン繊維で抗カビ性を試験したところ、
>いずれも白癬菌の増殖を抑える結果が得られました。
〈略〉
>Q12.キチンを溶かすことは可能でしょうか?
>キチンは水素結合による強固な結晶構造を保っていることから溶けにくい性質がありま
>す。
〈略〉
>Q13.キトサンを溶かすことは可能でしょうか?
>うすい酢酸水溶液,食酢などに溶けます。キトサンが溶けた水溶液はオイルのように
>粘ちょうな溶液です。
その他参考 URL:
- http://chiema.dyndns.org/hakkenindex.files/nansou1-4.txt
- http://www.kamitakara-dsl.com/sakura/urushi.html (「漆千杯に蟹の足一本」)
- http://sugimotojapan.asablo.jp/blog/2005/10/22/116326
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/books/1215619596/277-
277 :無名草子さん:2008/07/13(日) 10:53:49
『トンデモ一行知識の世界』P86
>この作品(南総里見八犬伝)、医事・薬学的な事項をみても、破傷風の患者には人間の生血を全身にあびせれば完治するだの、
>ウルシの毒は蟹肉に溶けて水になるだの、胃腸の邪熱をとるには黄金を煎じた水を冷やして服用すればよいだのといった
>奇想天外な記事が満載されていて、読んでいて実に楽しい。
>奇想天外といったが、たとえば蟹がウルシかぶれに効能があることは、最近のキチンキトサンの研究などで科学的にも
>根拠のあることが証明されている。馬琴はちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベルでの考証も怠っていないのだ。
はいはい「薬学」ですよ。まさに「自家薬籠中のもの」だね。
キチン・キトサンとウルシで検索すると、民間療法とか『本草綱目』とか清代『本経逢源』がヒットするが
いづれも「蟹をひき潰して塗布」という「甲殻」を使用する例で「蟹肉」ではない。
キチン・キトサンが含まれているのは殻であって肉ではないのだ。そして、
>最近のキチンキトサンの研究などで科学的にも根拠のあることが証明されている
という証明も見当たらない。結局馬琴は「破傷風」「ウルシの毒」「胃腸の邪熱」という
唐沢が挙げた3例総てで出鱈目を書いていることになる。なにがム
>ちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベルでの考証も怠っていない
だよ。薬学は打率10割ですねカラサワ先生!
>
278 :無名草子さん:2008/07/13(日) 10:57:13
>>277
そもそも、最新のキチンキトサンの研究と、「古今の薬学書」はなんの関係もないだろって。
「ウルシの毒に蟹肉が効く」というのが現代の薬学で正しいとされたところで
馬琴の手柄じゃないし。
282 :無名草子さん:2008/07/13(日) 11:48:11
>>277
これ、以前調べたとき、日本キチン・キトサン学会というところを、
どう解釈していいのか迷って、ズルズルと放置してしまった覚えが……。
http://www.jscc.jp/
この作品(南総里見八犬伝)、医事・薬学的な事項をみても、破傷風の
患者には人間の生血を全身にあびせれば完治するだの、ウルシの毒は
蟹肉に溶けて水になるだの、胃腸の邪熱をとるには黄金を煎じた水を
冷やして服用すればよいだのといった奇想天外な記事が満載されていて、
読んでいて実に楽しい。
奇想天外といったが、たとえば蟹がウルシかぶれに効能があることは、
最近のキチンキトサンの研究などで科学的にも根拠のあることが証明
されている。馬琴はちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベル
での考証も怠っていないのだ。
「人間の生血を全身にあびせれば完治」とは八犬伝に書いてないぞというのは、「『生血を
全身にあびた』のは志乃じゃなくてエリザベートでは」の方で。
「蟹がウルシかぶれに効能がある」というのは、民間療法としては伝えられているけど、
蟹汁を食べるか、蟹の甲羅をすりつぶして皮膚に塗るかのどちらか。
唐沢俊一のいう「ウルシの毒は蟹肉に溶けて水になる」は、八犬伝の第四回にある蟹汁
の説明、「もし蟹を烹ることあれば、漆ながれてよらずとなん」[1] の劣化コピーと思われる
けれど、これでは「最近のキチンキトサンの研究などで」とは話がつながらない。キチンが
存在するのは「カニやエビの甲殻」、キトサンは「真菌類の接合菌類(ケカビの仲間)の細
胞壁」[2] であり、「蟹肉」ではない。それに、キチンやキトサンを食べても、ヒトは「消化す
る酵素を持たない」ため、「食物繊維としての作用を発揮した後、大部分はそのまま糞中
に排泄され」るのみ [2] と、日本キチン・キトサン学会の Q&A に書いてある。
実は、同じ八犬伝の第四回には、孝吉の漆かぶれの治療のために物売りの少年から
買った蟹三十匹の「甲を碎きて全身にぬりつ」[1] とも書かれている。こちらを引けば、
馬琴の生きていた当時の「古今の薬学書」の記述にも合致するだろうに、なぜわざわざ、
「ウルシの毒は蟹肉に溶けて水になる」としてしまっているのかは謎である。
ちなみに、「たとえば蟹がウルシかぶれに効能があることは、最近のキチンキトサンの
研究などで科学的にも根拠のあることが証明」されているといえるかどうかは微妙。
「キチンは火傷などを早くきれいに治す創傷被覆剤として商品化」されていたり、キトサン
は抗菌作用があって水虫の「白癬菌の増殖を抑える」報告があったりという話もある [2]
が、漆かぶれについては民間療法としていわれているのみのレベルっぽい。
そもそも、「蟹がウルシかぶれに効能」があると、たとえ「最近のキチンキトサンの研究
などで科学的にも根拠のあることが証明」されていたとしても、それは馬琴とはいっさい
関係のない話。「馬琴はちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベルでの考証
も怠っていな」かったかどうかの傍証にも何にもならないという問題もあるのだが。
[1] - http://www.fumikura.net/text/8kenden/04.html (『南總里見八犬傳』第四回)
>漆(うるし)は蟹(かに)を忌(いむ)もの也。されば『漆(うるし)を掻(か)く家(いへ)に
>て、もし蟹(かに)を烹(に)ることあれば、漆(うるし)ながれてよらずとなん。よりて思ふ
>に、今(いま)その瘡(かさ)は、漆(うるし)の毒(どく)に觸(ふれ)たるのみ。内(うち)よ
>り發(いで)きしものならぬに、蟹(かに)をもてその毒(どく)を觧(とか)ば、立地(たちど
>ころ)に愈(いえ)もやせん。用(もち)ひて見よ
〈略〉
> 義実(よしさね)はこれを見て、「箇様(かやう)にせよ」と教(をしへ)給へば、孝吉(た
>かよし)はこゝろ得(え)果(はて)て、その半(なかば)は生(いき)ながら、甲(こう)を碎
>(くだ)きて全身(みうち)にぬりつ。そが間(ひま)に貞行(さだゆき)等(ら)は、腰(こし)
>なる燧(ひうち)をうち鳴(な)らし、松(まつ)の枯枝(かれえ)を折焼(をりたき)て、残
>(のこ)れる蟹(かに)を炙(あぶ)りつゝ、甲(こう)を放(はなち)、足(あし)を去(さり)
>て、孝吉(たかよし)に與(あたふ)るを、ひとつも殘(のこ)さず服(ふく)せしかば、さしも
>今(いま)まで臭(くさ)かりし、膿血(うなぢ)は乾(かは)き、瘡痂(かさぶた)は、只
>(たゞ)掻(か)く隨(まゝ)に脱落(こぼれおち)て、大(おほ)かたならず愈(いえ)にけり。
[2] - http://www.jscc.jp/chitin/qanda.htm
>Q1.キチンとキトサンは自然界ではどのようなところに存在しますか?
>キチンについてはカニやエビの甲殻がすぐに思い浮かびます。
>〈略〉多くの場合、キチンは生物の外骨格(カビやキノコの場合は細胞壁)に存在してお
>り、外界から身をまもるバリアーとなっています。キトサンは真菌類の接合菌類(ケカビ
>の仲間)の細胞壁に存在します。
〈略〉
>Q4.キチンやキトサンはどんなところに使われていますか?
>キチンは火傷などを早くきれいに治す創傷被覆剤として商品化されています。最近、抗
>菌防臭繊維というラベルをつけた靴下や下着をスーパーマーケットやデパートで見かけ
>ますが、これらの中にはキトサンを有効成分としている製品が増えています。
〈略〉
>Q5.キチンやキトサンを食べるとどのようになりますか?
>ヒトがこれらのものを摂取しても消化する酵素を持たないため、野菜や穀類、豆類など
>に含まれるセルロースやヘミセルロース、ペクチンなどと同様に、消化管内で食物繊維
>としての作用を発揮した後、大部分はそのまま糞中に排泄されます。
〈略〉
>Q10.キトサンは水虫に効くのでしょうか?
>キトサンを酢酸や乳酸に溶かして、水虫の原因菌である白癬菌に対して生育を抑える
>濃度測定や、キトサン微粉末を練り込んだレーヨン繊維で抗カビ性を試験したところ、
>いずれも白癬菌の増殖を抑える結果が得られました。
〈略〉
>Q12.キチンを溶かすことは可能でしょうか?
>キチンは水素結合による強固な結晶構造を保っていることから溶けにくい性質がありま
>す。
〈略〉
>Q13.キトサンを溶かすことは可能でしょうか?
>うすい酢酸水溶液,食酢などに溶けます。キトサンが溶けた水溶液はオイルのように
>粘ちょうな溶液です。
その他参考 URL:
- http://chiema.dyndns.org/hakkenindex.files/nansou1-4.txt
- http://www.kamitakara-dsl.com/sakura/urushi.html (「漆千杯に蟹の足一本」)
- http://sugimotojapan.asablo.jp/blog/2005/10/22/116326
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/books/1215619596/277-
277 :無名草子さん:2008/07/13(日) 10:53:49
『トンデモ一行知識の世界』P86
>この作品(南総里見八犬伝)、医事・薬学的な事項をみても、破傷風の患者には人間の生血を全身にあびせれば完治するだの、
>ウルシの毒は蟹肉に溶けて水になるだの、胃腸の邪熱をとるには黄金を煎じた水を冷やして服用すればよいだのといった
>奇想天外な記事が満載されていて、読んでいて実に楽しい。
>奇想天外といったが、たとえば蟹がウルシかぶれに効能があることは、最近のキチンキトサンの研究などで科学的にも
>根拠のあることが証明されている。馬琴はちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベルでの考証も怠っていないのだ。
はいはい「薬学」ですよ。まさに「自家薬籠中のもの」だね。
キチン・キトサンとウルシで検索すると、民間療法とか『本草綱目』とか清代『本経逢源』がヒットするが
いづれも「蟹をひき潰して塗布」という「甲殻」を使用する例で「蟹肉」ではない。
キチン・キトサンが含まれているのは殻であって肉ではないのだ。そして、
>最近のキチンキトサンの研究などで科学的にも根拠のあることが証明されている
という証明も見当たらない。結局馬琴は「破傷風」「ウルシの毒」「胃腸の邪熱」という
唐沢が挙げた3例総てで出鱈目を書いていることになる。なにがム
>ちゃんと、古今の薬学書などに目を通し、当時レベルでの考証も怠っていない
だよ。薬学は打率10割ですねカラサワ先生!
>
278 :無名草子さん:2008/07/13(日) 10:57:13
>>277
そもそも、最新のキチンキトサンの研究と、「古今の薬学書」はなんの関係もないだろって。
「ウルシの毒に蟹肉が効く」というのが現代の薬学で正しいとされたところで
馬琴の手柄じゃないし。
282 :無名草子さん:2008/07/13(日) 11:48:11
>>277
これ、以前調べたとき、日本キチン・キトサン学会というところを、
どう解釈していいのか迷って、ズルズルと放置してしまった覚えが……。
http://www.jscc.jp/