トンデモない一行知識の世界 OLD - 唐沢俊一の「雑学」とは -

一部で有名な唐沢俊一の一行知識に、ツッコミを入れたり派生トリビアを書いたり。
「愚かで分別のない人と思われたいなら、唐沢俊一のトリビアを引用しなさい。」

 
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2008/6/14  14:09

胎児進化説や奇学説など、次から次へとセンスのよくない造語が  その他の雑学本 間違い探し編

『月刊ほんとうに怖い童話』 2008 年 7 月号
コラム 『唐沢俊一が選ぶアブナイ奇書』 の『ドグラ・マグラ』の紹介。

冒頭に掲げられた「胎児よ、胎児よ、なぜ踊る。母親の心がわかって、
恐ろしいのか」という歌をキーワードにした胎児進化説や、人間は脳で
ものを考えるのではない、という奇学説など、次から次へと奇怪な話が
登場する。

×「胎児よ、胎児よ、なぜ踊る。母親の心がわかって、 恐ろしいのか」
○「胎児よ胎児よ何故躍る 母親の心がわかっておそろしいのか」

×胎児進化説 ○ヘッケルの反復説を下敷きにした論文『胎児の夢』 または 心理遺伝
×奇学説 ○脳髄論

下に引用するのは、青空文庫の『ドグラ・マグラ』の中の巻頭歌。上の「巻頭歌」が
小説の冒頭にあるもので、その下の「巻頭歌」は、作中に登場する『ドグラ・マグラ』
という標題のついた「原稿紙の綴込」の 1 ページに書かれてるもの。

唐沢俊一の引用は、原文にない句読点を勝手に挿入し、「何故躍る」を「なぜ踊る」に、
おそろしいのか」を「恐ろしいのか」に改竄してしまっている。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2093_28841.html
>巻頭歌

>胎児よ
>胎児よ
>何故躍る
>母親の心がわかって
>おそろしいのか

>  巻頭歌
>胎児よ胎児よ何故躍る 母親の
>     心がわかっておそろしいのか

> その次のページに黒インキのゴジック体で『ドグラ・マグラ』と標題が書いてあるが、
>作者の名前は無い。


人間は脳でものを考えるのではない」というのは、作中でいう「脳髄論」。唐沢俊一は、
奇妙な学説、奇説のつもりで「人間は脳でものを考えるのではない、という奇学説など
と書いたのかもしれないが、「奇学説」自体が変な言葉で、「"奇学説"」とダブルクォート
つきでググってヒットしたのは、唐沢俊一の文章を引用した2ちゃんねるのスレ (Read
More
参照) の 1 件のみだった。ちなみに、「"胎児進化説"」でググった結果も同様。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2093_28841.html
>絶対探偵小説
>      脳髄は物を考える処に非ず
>        ===正木博士の学位論文内容===
>                                               一記者
> ナニ。吾輩の学位論文「脳髄論」の内容がナゼ学界に発表されないかッテ……アハ
>ハ。馬鹿にするな。物議を起すのを怖がって発表を差控えるような吾輩じゃないよ。
〈略〉
>吾輩……アンポンタン・ポカンは遂に此(かく)の如くにして、地上の大悪魔を諸君の
>眼前にまで追究して来たのだ。神出鬼没、変幻自在の怪犯人、残忍非道のイタズラ
>者のトリックの真相をドン底まで突き止めて来たのだ。そうしてタッタ今、その大悪魔の
>正体……ポカン自身の脳髄を、諸君の眼の前にタタキ付けて、絶叫する光栄を有する
>のだ。……曰(いわ)く…… ……脳髄は物を考える処に非ず…… ……と……」
〈略〉
>吾々が常住不断に意識しているところのアラユル慾望、感情、意志、記憶、判断、
>信念なぞいうものの一切合財は、吾々の全身三十兆の細胞の一粒一粒毎(ごと)に、
>絶対の平等さで、おんなじように籠(こ)もっているのだ。そうして脳髄は、その全身の
>細胞の一粒一粒の意識の内容を、全身の細胞の一粒一粒毎(ごと)に洩れなく反射
>交感する仲介の機能だけを受持っている細胞の一団に過ぎないのだ。


で、唐沢俊一のいう「胎児進化説」――作中にもそんな言葉は登場しないが――は、小説
の中で正木博士の書いた卒業論文『胎児の夢』で展開されている説をさすのだろう。
エルンスト・ヘッケルの反復説を下敷きにしている」といわれているもので、反復説の
「個体発生は系統発生を繰り返す」というのを、記憶までもが受け継がれると拡張。

作中では、この『胎児の夢』には「両親の心理生活を初めとして、先祖代々の様々の
習慣とか、心理の集積とかいうものが、どうして胎児自身に伝わって来たかという『心理
遺伝』の内容が明示
」していると、若林博士が主人公に説明している。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2093_28841.html
> ……すなわちこの論文は、人間が、母の胎内に居る十箇月の間に一つの想像を
>超絶した夢を見ている。それは胎児自身が主役となって演出するところの『万有進化
>の実況』とも題すべき数億年、乃至(ないし)数十億年の長時間に亘(わた)る連続活
>動写真のようなもので、既に化石となっている有史以前の異様奇怪を極めた動植物
>や、又は、そんな動植物を惨死滅亡させた天変地妖の、形容を絶する偉観、壮観まで
>も、一分(ぶ)一厘(り)違わぬ実感を以て、さながらに描きあらわすのみならず、引続
>いては、その天変地妖の中から生み出された原始人類、すなわち胎児自身の遠い先
>祖たちから、現在の両親に到る迄の代々の人間が、その深刻な生存競争のためにど
>のような悪業を積み重ねて来たか。どんなに残忍非道な所業を繰返しつつ、他人の耳
>目を眩(くら)まして来たか……そうしてそのような因果に因果を重ねた心理状態を、
>ドンナ風にして胎児自身に遺伝して来たかというような事実を、胎児自身の直接の主
>観として、詳細、明白に描きあらわすところの、驚駭(きょうがい)と、戦慄とを極めた大
>悪夢である事が、人間の肉体、及(および)、精神の解剖的観察によって、直接、間接
>に推定され得る……と主張している。


http://ja.wikipedia.org/wiki/ドグラ・マグラ
>胎内で胎児が育つ十ヶ月のうちに閲する数十億年の万有進化の大悪夢の内にあると
>いう壮大な論文「胎児の夢」(エルンスト・ヘッケルの反復説を下敷きにしている)や、
>「脳髄は物を考える処に非ず」と主張する「脳髄論」、入れられたら死ぬまで出られない
>精神病院の恐ろしさを歌った「キチガイ地獄外道祭文」などが挿入されており、すべて
>が渾然一体となって読者の常識を転倒させる破天荒な展開となっており、到底まとも
>には要約不能の奇書である。


http://ja.wikipedia.org/wiki/反復説
>反復説は、エルンスト・ヘッケルが唱えたもので、生物発生原則とも言われる。往々に
>して、簡単に「個体発生は系統発生を繰り返す」という風に言われる。〈略〉つまり、あ
>る動物の発生の過程は、その動物の進化の過程を繰り返す形で行われる、というの
>が、この説の主張である。〈略〉
>脊椎動物各群の発生過程(エルンスト・ヘッケルによる)よく実例に挙げられるのが、
>哺乳類の発生である。特に、その初期に形成される鰓裂は哺乳類では使用されること
>なくすぐにふさがってしまうから、哺乳類が魚類を経て進化した証拠であり、その時期
>の胚は魚類の段階の姿である、と主張される。また、鰓列の形成→四肢の形成→鰓
>列がふさがる、という順番は、無顎類の鰓形成→魚類の対鰭獲得→両生類の鰓消失
>の順番と対応しているとされる。


http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2093_28841.html
>……それからその下の方の日本罫紙の綴じたのに、毛筆で書いてありますのは、
>その『脳髄論』の逆定理とも見るべき『胎児の夢』の論文で御座います。つまり自分を
>生んだ両親の心理生活を初めとして、先祖代々の様々の習慣とか、心理の集積とか
>いうものが、どうして胎児自身に伝わって来たかという『心理遺伝』の内容が明示して
>ありますので、当大学第一回の卒業論文の銓衡(せんこう)に一大センセーションを
>捲き起したのは実に、この一篇に外ならないので御座います。



その他参考 URL:
- http://www.biological-j.net/blog/2007/11/000337.html
- http://yoshibero.at.webry.info/200707/article_9.html
- http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/1552/dogura-magura2.html



http://love6.2ch.net/test/read.cgi/books/1212823815/224-

224 :184:2008/06/12(木) 00:02:22
『月刊 ほんとうに怖い童話』7月号
『唐沢俊一が選ぶアブナイ奇書』より、『ドグラ・マグラ』の項。
>冒頭に掲げられた「胎児よ、胎児よ、なぜ踊る。母親の心がわかって、
>恐ろしいのか」という歌をキーワードにした胎児進化説や、人間は
>脳でものを考えるのではない、という奇学説など、次から次へと
>奇怪な話が登場する。

『ドグラ・マグラ』の巻頭歌は、正しくは
「胎児よ/胎児よ/何故躍る/母親の心がわかって/おそろしいのか」
(※「/」は、原文では改行)

「奇学説」というのも妙な言葉だが、それはともかく・・・

×「胎児進化説」
○「反復説」
あるいは・・・
○「心理遺伝」

225 :184:2008/06/12(木) 00:05:53
(続き)
登場人物・正木博士の唱える学説は、人間は全身の細胞で思考するので
あって、脳髄はその中継所にすぎないというもの。したがって、人間の
遺伝子情報には先祖の記憶も含まれる・・・これが「心理遺伝」。
正木博士は学生時代、自身の学説を『胎児の夢』と題する卒論で発表する
のだが、その下敷きとなっているのが「反復説」。

唐沢の言う「?という歌をキーワードにした胎児進化説」が、心理遺伝の
方を指しているのなら、それほど問題はないのだが、

「ゆき過ぎた進化論」とも謂われる反復説は、ヘッケルの唱えた実在の
学説であって、「個体発生は系統発生を繰り返す」というもの。
『ドグラ・マグラ』の巻頭歌をキーワードにしているわけではない。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E5%BE%A9%E8%AA%AC
http://www.biological-j.net/blog/2007/11/000337.html
http://yoshibero.at.webry.info/200707/article_9.html

247 :184:2008/06/12(木) 13:13:13
>>231
>222のリンク先の引用元『夢野久作の日記』の実際の書籍には、もう少し詳しい状況が
書かれているが、関係者の記憶も曖昧だったろうし、同じ杉山龍丸の著述がソースとして
存在するのであれば、ガセ認定からは外してもいいと思う。 

>>224の「巻頭歌」について・・・唐沢による引用は、原文では改行されている部分に
勝手に句読点を挿入しているし、漢字と仮名のバランスも変えられている。
さらに、原文では「躍」っている胎児を、「踊」らせてしまっている。胎児が「躍る」のは
胎動の表現だろうが、唐沢による引用では胎内でダンスしていることになるではないか。



   
 
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