2008/4/16 2:05
小田晋教授によると……「不安定性人格障害の衝動型」? 『トンデモ一行知識の世界』間違い探し編
『トンデモ一行知識の世界』 P.103
「不安定性人格障害の衝動型」のところは、WHO による分類、ICD-10 の F60 に従うなら
「情緒不安定性人格障害」と書くべきで [1]、「情緒」のつかない「不安定性人格障害」と
いう言葉は、ググってもヒットなし。
また、情緒不安定性人格障害には衝動型と境界型があるが、「境界型」の方を DSM-IV
分類の「境界性人格障害」とみなしているような例はあっても [2]、「衝動型」に限定して、
境界性人格障害の別名であるかのように扱っている例は見あたらない。
そもそも、「人格障害」(Personality disorder) は、「精神状態を称して」いうものではなく、
「病的な個性」または「自我の形成不全」 ともいえる人格・性格の状態で、「他の精神障害
と比べて慢性的」であり、症状も長期にわたって持続する [2]。
さらに、唐沢俊一の文章では、「衝動的、かつ突発的に死を決意する」のが境界性人格
障害の定義であるかのようだが、DSM-IV-TR の診断基準では、1. 見捨てられ不安
2. 理想化とこき下ろしに特徴づけられる不安定な対人関係 3. 同一性の障害 4. 衝動性
5. 自殺企図 6. 感情不安定 7. 慢性的な空虚感 8. 怒りの制御の困難 9. 一過性の
妄想様観念/解離 という 9 項目のうち 5 項目以上を満たすものとされる [3]。衝動性も
自殺企図もない境界性人格障害の患者も、当然存在するのだ。
しかし、一番トンデモないというか目を疑うのは、「適応性がある」のくだり。適応している
のならば精神疾患ではない。「その症状が原因で職業・学業・家庭生活に支障を来して
いる」ことなしに、異常と診断されることなどない。特に「境界性人格障害」のような人格
障害の場合、これがなければ誰もが精神疾患ということになってしまう [3]。
傍目には楽しそうに見えても、実は本人は大変苦しい思いをしていて――という話ならば、
まだわかるのだが、唐沢俊一の説では、「本人も大変に社会に順応しているように思い
込んでいる」ときでも、「境界性人格障害」の「不安定性人格障害の衝動型」の人間が、
その病気の特徴である不安定性によって「さまざまな状況に適応」しているということらしい
から、わけがわからない。
明るくて友人も多い人の突然の自殺だったら、うつ病をまず疑ってもよいのではないか、
どうして無理やり境界性人格障害のレッテルを貼る必要があるのだろうか、という疑問も。
[1] - http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html
[2] - http://ja.wikipedia.org/wiki/人格障害
[3] - http://ja.wikipedia.org/wiki/境界性人格障害
こういう衝動的、かつ突発的に死を決意するような精神状態を称して
「境界性人格障害」という。社会精神病理学の小田晋教授によると、
「衝動性人格障害」あるいは「不安定性人格障害の衝動型」とも言うそうだ。
特に最後の名称はわかりやすい。
「不安定性」というのは、逆に言うと社会のさまざまな状況に適応性がある、
ということでもある。それなりにいろんな人々のグループとも溶け込め、話を
合わせることができ、友人も多くできるし、一見して明るく楽しくやっている
ように見え、また、本人も大変に社会に順応しているように思い込んでいる
のが、ある日、ふと
「おれは本当に楽しんでいるのか。まわりの人間に合わせて、ただ楽しい
ふりをしているだけではないのか」
と考えだし、自分をだましていることに耐えられなくなってしまう。そして、
ちょっとした理由をきっかけに、死を選ぶのである。
「不安定性人格障害の衝動型」のところは、WHO による分類、ICD-10 の F60 に従うなら
「情緒不安定性人格障害」と書くべきで [1]、「情緒」のつかない「不安定性人格障害」と
いう言葉は、ググってもヒットなし。
また、情緒不安定性人格障害には衝動型と境界型があるが、「境界型」の方を DSM-IV
分類の「境界性人格障害」とみなしているような例はあっても [2]、「衝動型」に限定して、
境界性人格障害の別名であるかのように扱っている例は見あたらない。
そもそも、「人格障害」(Personality disorder) は、「精神状態を称して」いうものではなく、
「病的な個性」または「自我の形成不全」 ともいえる人格・性格の状態で、「他の精神障害
と比べて慢性的」であり、症状も長期にわたって持続する [2]。
さらに、唐沢俊一の文章では、「衝動的、かつ突発的に死を決意する」のが境界性人格
障害の定義であるかのようだが、DSM-IV-TR の診断基準では、1. 見捨てられ不安
2. 理想化とこき下ろしに特徴づけられる不安定な対人関係 3. 同一性の障害 4. 衝動性
5. 自殺企図 6. 感情不安定 7. 慢性的な空虚感 8. 怒りの制御の困難 9. 一過性の
妄想様観念/解離 という 9 項目のうち 5 項目以上を満たすものとされる [3]。衝動性も
自殺企図もない境界性人格障害の患者も、当然存在するのだ。
しかし、一番トンデモないというか目を疑うのは、「適応性がある」のくだり。適応している
のならば精神疾患ではない。「その症状が原因で職業・学業・家庭生活に支障を来して
いる」ことなしに、異常と診断されることなどない。特に「境界性人格障害」のような人格
障害の場合、これがなければ誰もが精神疾患ということになってしまう [3]。
傍目には楽しそうに見えても、実は本人は大変苦しい思いをしていて――という話ならば、
まだわかるのだが、唐沢俊一の説では、「本人も大変に社会に順応しているように思い
込んでいる」ときでも、「境界性人格障害」の「不安定性人格障害の衝動型」の人間が、
その病気の特徴である不安定性によって「さまざまな状況に適応」しているということらしい
から、わけがわからない。
明るくて友人も多い人の突然の自殺だったら、うつ病をまず疑ってもよいのではないか、
どうして無理やり境界性人格障害のレッテルを貼る必要があるのだろうか、という疑問も。
[1] - http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html
[2] - http://ja.wikipedia.org/wiki/人格障害
[3] - http://ja.wikipedia.org/wiki/境界性人格障害